2009年3月14日土曜日

またおもしろいネタをみつけた

『原因は超低価格品の蔓延にあらず!PC価格が暴落する“本当の理由”』 戸田覚
http://diamond.jp/series/digitrends/10065/?page=1

大抵の評論家は子供っぽい決定論をこの世の真実であるかのように述べるものだ。それは正しいとか間違いとかでなく、評論家とはそういう生き物だからだ。少々極端かもしれないが方向性をはっきり示す。これは彼らが生き残る道でもある。「ナチス死ね」というのと同じく「いや、ナチスのすべてが死すべきというのは誤りだ」というのも意味があるように。
この戸田という評論家もそうである。
この人物は「PCは性能こそ命」というタイプの主張をする。それはそれで間違いではないのだが、実際に「普通の店頭」でどういうPCが売れてるか等をまるっきり考えていないので、そこいらへんを割り引いて「ふーん」と見るべき人物でもある。その主張は概ねPCメーカーなどに日和ったものばかりなので正直「いくら貰ってるの?」と以前は邪推したこともあったのだが、おそらくそうではないだろう。単にPCに過剰な未来絵図を夢見すぎたじいさまの着想なのだ。
 まぁ個人批判はいい。問題はそこではなく、そういう人物がこういうマクロなテーマを選んだ場合にどうなるかということだ。遺憾ながらあまりにもピントが合いすぎている。「もっと重くて多機能なOSを作れ。ユーザーは買うしかないのだから嫌でも買い替え需要が起きるし値下げも必要ない」と彼は言っているのである。彼は常にメーカー(しかも国内メーカー)擁護派でユーザ視点は持たないタイプの批評家なので、この姿勢は彼としては正しい。
 
 だけど、たとえメーカーよりと割り引いても彼の発想は間違いなのである。

 第一に、彼はWindows Vistaを軽いOSと言っているが、この時点で巷の感覚とはズレている。このへんの主観は個人差があるのでコメントは避けるが「XPと大して機能差がないからVistaが売れなかった」というのは「ある程度」正しい。正解は「大して差がないのにクソ重く面倒ばかり多かった」からなのであるが。
 同じ機能なら軽くて問題がないほうがいいに決まっているわけで、実際は結構いいOSであるにも関わらずVista PCはちっとも売れなくなった。とどめに、重いということはバッテリー消費も多いということだ。実際にはハードウェアまわりの対応はXPより優れているはずなのに、自身の重さのせいで結局電力喰いなんじゃ意味がなくなってしまったのはバカというより他にない。

 第二に、彼の目線は一般ユーザーを指していない。
 本当に仕事で使っているユーザーは、PCをホイホイ買い換えない。お仕事PCの環境移行が危険なギャンブルである事を彼らは知っているから、今問題なく動いて使えている環境を早々取り替えようなんて思わないのだ。Officeだって彼らは当然使いまわす。何とか動作する限り、Vistaだろうと7だろうと同じ古いOfficeを継続して使おうとするだろう。Officeが高いからではない、移行して同じように使えるとは限らないと知っているからだ。
 結果として、買い替えサイクルは「PCが壊れた時」となる。

 家庭のコンシューマに至ってはもっとはっきりしている。たかがパソコンの基本ソフトに「すごい体験」なんて求めるのはPCマニアであって一般ユーザではないわけで、しかもそんなユーザは昔に比べてずっと少なくなっている。物心ついた時にはインターネットも高性能PCもあった世代にはそんなまやかしは通用しない。
 家電を3年ごとに数十万かけて買い換えつづける人がいるだろうか?そんなのは一部の裕福層くらいのものだろう。普通は「最新がいいなー」と知りつつも壊れるまで今の機械を使う。(あるいは、極力安いモデルを定期的に乗り換える方針に走るかもしれないが)PCにもその原理が摘要されるから、新型OS〜なんて大々的に宣伝しても、みんな首をかしげて「パソコンはパソコンでしょ?」で終わるのだ。

 結論を言おう。
「Windows7は間違っている」という彼の主張は正しくない。これはMicrosoft社の方が正しい。さすがに現実を見ている。
 ただ、今のままが正しいかというと微妙でもある。これについては「ネットブックほど値下げする必要はない。きっちり付加価値を出せば日本企業も戦える」でいいだろう。実際、ASUSが老舗と知らない一般人は、少し高くても見覚えのある国産メーカーにまだ走っている。この状況を利用し、信頼性の高いモデルで「安心」を売らない手はない。戸田氏のお客様である日本企業のプチ・アナリスト気取りの窓際人たちにも受けがいいだろうし。
 あとは市場の動向かな。
 私の姉は昨年Acerのネットブックを買ったが「わたしのレッツノートよりずっと速い、すごい!」と感激していた。なぜか。付加ソフトが少なく起動が速いだけではない。姉のパナソニックはWindowsXP発売当時のモデルだからだ。姉は保険の仕事をしているが、お客様へのプレゼンテーションをこのすさまじく古いパナソニックでずっと続けていたのだ。
 え?そんな極端な例は参考にならないって?
 ばかいっちゃいけない、家電の買い替えサイクルなんてそんなものでしょう?彼らにはPCも家電だから、これで正しいのです。

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